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本作は、作家自身が執筆した短編小説を出発点とし、「名前を持たない存在だけが住む谷」を舞台に展開されるインスタレーションです。この架空の谷では、本、食品、日用品といったすべての物から「名前」が剥ぎ取られています。新聞の見出しやロゴ、ラベル、書籍のタイトルは塗りつぶされ、来訪者は“名前のない世界”に身を置くことになります。
空間内では、名前を持たない人々が、名前のない物に名付けを行う様子が映像として映し出されます。導入としての書籍には、名前の変更を経験した人々の架空の記録が記録されています。
名づけは、単なる分類の行為ではありません。それはしばしば、制度、慣習、家族、国家といった力の構造に深く関わっています。「名は体を表す」と言われるとき、私たちは自らの身体、人生を、名という器に収め直しているのかもしれません。
本作は、名づけという行為そのものを批評的に問い直すと同時に、「名前を持たなかった/選べなかった」人々の現実と想像力に耳を澄ます場でもあります。名前とは誰のものか。その名は本当に自ら選んだものなのか。私たちはその名を、いかなる構造のなかで背負っているのか。本作は、そうした問いに向き合うためのひとつの試みです。


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